日本防災システム協会
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【ごあいさつ】

日本防災システム協会会長 井戸一朗

井戸一朗 日本の将来像として、第2期科学技術基本計画で「安心・安全で質の高い生活のできる国」が掲げられ、関連分野において多くの調査、研究が進められています。

しかし、国民の生命や資産を脅かす災害は多岐に渡っています。地震、台風などの自然災害をはじめ、産業や医療現場あるいは交通事故、さらに近年は、社会の情報化に伴い、大規模なシステム障害や個人情報の流失など新たなリスク要因も加わっており、計画の実現は容易ではありません。

1977年、当協会は時代を牽引すべく、防災関連技術および災害対策のシステム的アプローチの研究とこの普及・促進を目的として設立、現在にいたるまで、関連分野の専門家・研究者を中心として多くの企業の参画を得て活動を進めています。

協会の主たる活動は企業の防災意識・対策の啓発のために以下の活動に加え、その時々のニーズに応じた防災・リスクマネジメント等に関わる情報を提供しています。

  1. 研究者、防災関連技術の専門家、あるいは指導的立場の方々による講演
  2. サロン形式の意見交換会
  3. 講習会の企画と開催
    • 石油精製や化学プラントなどの安全設計や安全確保の手法であるHAZOPなど
    • プラント構築材の腐食に関する実習付き講習会など
  4. 防災関連技術や手法をテーマとする会報の発行

さらに、インターネットおよび端末機器の発展により、時間と空間を超え、大量のデータや映像などの情報交換も極めて容易になった環境を活用し、この度HAZOPを中心としたQ&Aコーナーを協会ホームページ内に設けました。ここではHAZOP受講者を中心とした交流の場を設け活発な議論が行われております。現場で働く人たち、またその責任者にとって、災害の発生原因の種類は限りなく多く、このような場で同じ環境にある人たちの経験や知識の交流は安全の確保に大きな効果をもたらすものと考えています。 

また、幸い当協会にはエンジニアリング、石油精製、電力、製鉄、制御システム製造、家庭用防災機器製造、セキュリティ関連事業など多岐にわたる産業分野のリーダー的企業が参加しており、異分野における安全、防災に関する情報の交流、経験の共有を図ることができる環境にあります。

確かに、企業として公表できる情報は限られてはいるかもしれませんが、多様性に富んだ腐食、疲労、経年変化あるいは安全性評価手法・評価基準など安全に関する経験や知識の企業の枠を超えた交流は資するところが大きいものと考えています。

こうした環境を構築し、今後とも会員企業間のみならず、より一層広く社会の安全・安心に寄与すべく努力を続けてゆくのが使命と考えています。

今後とも皆様方の一層の御指導、御鞭撻をお願いかたがたご挨拶申し上げます。

 

【ヒューマンエラー】

東京工業大学名誉教授 日本防災システム協会副会長 大島榮次

大島榮次 人間は、何事をするについても失敗の懸念が付き纏います。 失敗は、心理的、技術的、肉体的、外部環境など、様々な要素が組み合わされた複雑な構造の原因から生じるようです。 世界ナンバーワンのタイガーウッズと雖も、常に思うようなショットが出来るとは限らず、失敗することがあります。 失敗の原因が何であったかが判ると、それさえ繰り返さなければ成功すると思いがちですが、実際は依然として失敗が付き纏います。 失敗は、一つの条件あるいは原因から生じるのではなく、幾つかの条件が重なった時、すなわち複合的な条件下で起こります。

我々の日常生活でも多く経験しますが、失敗せずに上手くいく事例を考えて見ると、繰り返し行って慣れている作業では余り失敗することが無いと考えられます。 優れた音楽家が素晴らしい演奏が出来るのは、勿論、日頃練習に励むことによって失敗の可能性を無くす努力の成果ではありますが、この場合、それ以上に重要な条件は、自分の芸術的表現以外の邪念が一切排除されていることではないかと思われます。 あるスポーツ評論家は、失敗の原因は、ある時は自分を過大に期待し、またある時は自分をぼろくそに非難し、蔑むもう一人の自分が存在するからだと言っております。 要は、如何に邪念を持たずに物事に集中出来るかということでしょう。

さて、仕事の上でのヒューマンエラーは、大きな事故を起こす、あるいは多大な経済的な損失を生むことが少なくないので、古くからその対策は重大な関心事になっておりますが、残念ながら一般的に通用する効果的なエラー防止策を見出すことには必ずしも成功してはおりません。 ヒューマンエラーの起こる条件としては、Skill(技量)とMechanism(構造) とCircumstance(環境)の3つの要素があると思われます。

Skillは言うまでもなく、その行動に如何に習熟しているかということで、繰り返し練習あるいは経験することによって得られる 条件です。 Skillはエラーを起こさないための重要な条件であるというよりは、本来は、熟練者と呼ばれる人達が良い品質や高い生産性を確保する条件である筈です。 言い換えれば、エラーを起こすようでは良い仕事は出来ないと言うことでしょうか。

Mechanismはエラーが発生する構造は、例えば、バルブを捻る、ボタンを押す、メーターを読む、といった作業の内容ですが、人間の間違いを誘発する可能性のある条件です。 失敗しても事故にならない構造のフェイルセーフや間違いが起こし得ないように配慮した構造のフールプルーフなどの対策は、人間はエラーが起こす可能性を認めた上で、出来るだけその影響を極小化しようという考えに基づいています。

Circumstanceはその時の事情といった問題ですが、暗くて視界が悪い、天候が荒れている、あるいは人間自身の状態として寝不足である、他のことを考えているなど、作業の背景となる条件です。 誤解や錯覚のような間違いには、その背景として注意力の散漫のような心理的な条件以外にも知識の不足や経験の未熟などの条件も影響します。 鉄道その他で広く行われている指差呼称は、確認の行動によって環境条件の影響を回避することを目的としたものです。

このような構造のヒューマンエラーを排除するのに有効な方法を研究することは、安全対策上最も重要な課題であることは言うまでもありません。 当協会でも、ヒューマンエラー問題には研究会などで積極的に取り組んでおります。 これまでのヒューマンエラー対策の基本的な考え方は、C&C (Command and Control)すなわち、規則を作ってそれを守らせるという方法論でした。 道路交通法などはそれの典型的な例と言えます。 しかしこれからは、R&R (Require and Response)すなわち、要求されたことに応えるという個人の責任における自主的な対応を前提にすることが重要であります。 言い換えれば、職場の雰囲気を、上司の命令に従うという構造から、上司の期待に応えるという構造にすることは、ヒューマンエラー対策の重要な条件であると思われます。